今回は総力をあげてブログを更新しました。
かなり長い文章ですので時間があるときにでも
読んでみてください。
また写真はクリックすれば多少大きなサイズになります。
このブログを読んでいる方々は沖縄に住んでいるとは限らないと
思いますので,今夜の話しの現場がいったい沖縄本島のどこなのかを
詳しく説明しなければならないと思います。
現場は,泡瀬干潟の埋め立て工事や辺野古の基地建設による
埋め立てのように内地の新聞に載るような工事ではないけれど,
沖縄県のあちらこちらで今行われている護岸工事の一例です。
現場は,那覇市から国道58号線(沖縄本島の西海岸を貫く
大きな国道)を北上すると名護市に着きますが,ちょうど
名護市に入るところが東江(あがりえ)という海沿いの町で,
ここの海が現場です。名護市東江でグーグルマップなどで
検索してみてください。
この護岸調査は,沖縄県の事業で「沖縄県土木建築部海岸防災課」が
台風時などの高潮対策として新たなに改良した護岸工事を始めているものです。
旧護岸はどこにでもあるコンクリート護岸とテトラポットの組み合わせ
でしたが,これを砂浜付きの石積に変更しているのです。
海岸防災課のホームページを閲覧するとわかりますが,高潮対策の工事は
現在沖縄本島の4カ所で実施されていることになっています。
このような防災工事は,地域住民の要請にともない行政が実施するものです。
私が2年前から海底の釣り糸回収をしている北谷の宮城海岸も,この事業の
一つです。東江の護岸工事は約34億円,宮城海岸は20億円という
巨額の税金が投入されている事業です。
海岸防災課の基本理念が3つ書かれていましたが,どれも言葉の芸術で
実際とはかけ離れたものです。
次ぎに何故この東江の工事が問題なのかをお伝えします。
東江の護岸が防災の面から見直されることには異論はありません,
しかし,護岸に沿う形で自然の海底が残っている部分
約250メートルが海砂により完全に埋め立てされてしまうのです。
この海域は,生物多様性の宝庫ともいえる海です。
(見てきた現場を俯瞰の略図にしてみました)
この工事の内容は,昨年の12月に開催された,やんばるの
満月祭りの会場で,「北限のジュゴン調査チーム・ザン」の
方が放映された映像で知りました。
映像では,この海域にたくさんの生きものの営みがあることが
動画で紹介されていました。
防災は大切ですが,世界的に自然が破壊されている現在においては
これから工事が実施される現場の自然がどのようなもので,
これを破壊してまで工事をしなければならないのかをよく検討する
必要があると思います。
現在まで人間本位の考え方で開発をしてきたと思います。
その結果が現在の自然破壊をもたらしているのです。
それは周知のとおりでしょう。
この東江海岸は昨年までに半分の区域の工事が完成しています。
その半分の海の生物は既に生き埋めとなっています。
その部分が人工浜です。以下の写真がそうです。
今回は,チーム・ザンのメンバーの方々の陳情と努力により,
今から埋めようとする海域のサンゴの一部とクマノミの移植が
実現したのです。
市民側が何も言わなければ,残り半分の海もサンゴもろとも埋め立て
られていたことでしょう。
しかし,サンゴの移植は完了したということですが,海中には,
後の記述と写真で紹介しますが,まだ無数のサンゴが点在しています。
これは,詳しくはわかりませんが,県の規約による制限があるから
のようです。
でも,移植したサンゴは新しい場所で環境に適応して成長できる
保証などないのです。
以下の写真がこれから埋められる海域です。
海は外から見ただけではわかりませんが,水中には全く別の
生きもののすばらしい世界が広がっているのです。
クマノミの移植は1月半ばで,それが終わると海砂による埋め立てが
開始されるようです。
つまり,東江の生きものたちが生きられる時間は,あとわずかなのです。
海砂を入れ,完成すればここに人工浜が出現します。
人工浜のことも後で説明します。
まずは,この海の中の様子を見てください。
私たち2人は,冬の気象,海象の悪条件の合間をぬって,たまたま静かだった
日を選んで東江の海中に入りました。
猫のファルは車でお留守番,私たちが降りると直ぐにシートに
ごろりんとよこになり寝てしまいました。
調査は素潜りです。相棒も私も7㎏の鉛を腰に巻き付けています。
素潜りが私たちのいつもののスタイルでボンベは使いません。
当日の水温は20℃,私のウエットスーツはお尻の辺りが破れていて
(貧生活のため・笑い)冷たい海水が入ってきます。一瞬,今日はやっぱりやめた,
と言おうと思いましたが,生きもののためだと思いぐっとこらえました。
岸沿いは,このところの時化で透明度が少し悪いものの沖に向かって行くと
辺りは透明度がよくなりました。水深は2から6メートルです,
干潮の最大は70センチで,海中に入った時は既に上げ潮でした。
風は北西の微風で沖合いから吹いてきます。
最初に見つけた生きものは護岸の波打ち際で生活している
ヨダレカケです。波が来るとぴょんぴょんと跳びはねて
波をよけています。海水が嫌いなようです。笑い。
海中には無数の動物プランクトンが漂っていました。
まるで海水のスープです。
写真は卵のようなプランクトンです。
海底の地形は複雑で起伏が激しく,ここが古いサンゴ礁の名残で
あることがわかります。
沖縄の沿岸の自然の海底は砂場を除いて
どこも同じような地形なのですが,そこに現在まで手つかずのサンゴ礁が
残っているところなどもうどこにもありません。
ここ名護の海も本土復帰後開催された沖縄海洋博の道路整備のために
ことごとく破壊された経緯があるのです。海洋博とは海を破壊する
催し物だったということでしょうか。
東江の海底も手つかずの自然などありませんが,ここには無数の生きものが
生活しています。小さな生きものも含めると,その数の総数は天文学的な
数字になることでしょう。沖縄の海はどこも傷んでいますが,
生物多様性の宝庫なのです。東江もそうなのです。
相棒が海に入ってすぐに大きな巻き貝の殻を見つけました。
砂地に住む貝です。こんなのも生きているのです。
私は護岸から3メートルのところで生きた星砂の家族を見つけました。
これはタカセカイの殻に付着していたもので,いろいろな形のものが
ありました。
生きた星砂は海が汚れると真っ先に居なくなると
聞いたことかあります。この海の状態がいいということでしょう。
サンゴの移植は既に終了していますが,周囲には数十センチ大の様々な
サンゴの個体が残っています。その数いったい幾つあるのか数え切れ
ません。
子どものサンゴもあります。
サンゴは幼生の時に自分の住みやすい環境の場所を自分で探して
決める生きものです。そうして選んだ海が東江だったとは…。
これから成長するサンゴがあと一週間の命しかないのです。
撮影していて,私は人間としての存在を考えさせられました。
ソフトコーラルという骨格をもたないサンゴの仲間も大きいもので
1メートルを越えており,集まって成長しているところも
あちらこちらにあります。これは移植の対象外です。
子どものソフトコーラルです。
岩礁には,穴ぼこがあちらこちらに開いていて,そこに大型のウニや
ヒトデ,貝などがたくさん住んでいました。
クマノミとイソギンチャクの共生もあちらこちらに見られました。
いろいろな種類が確認できました。
私たちが見て潜った海域は埋め立てられる区域全体の1/5にも
満たないものです。その中でサンゴもクマノミもたくさん生息して
いるのです。おそらく全体では凄い数になるはずです。
2日でクマノミとイソギンチャクの全部を移植するのは不可能に
近いものです。
相棒が大きなハマサンゴを見つけたと呼びに来ましたが,
不慣れな海で,その場所がわからなくなってしまいました。
大きさは2メートルはあったとのことです。
岩礁がえぐられている場所を見つけました。おそらくサンゴを
ここからはぎ取って移植したのでしょう。シャコガイだけが
残っていました。
おなじみのトラギスの旦那もたくさん居ました。
ヤガラも居ます。
特に幼魚をたくさん見かけました。
ここが魚たちの生育場になっているのでしょう。
写真はミナミハコフグの幼魚です。
相棒が海底を指して合図しています。なんだろうとよく見ますが
わかりませんでした。そこで潜ってみるとオコゼの旦那でした。
危ない危ない…まだ修行が足りないようです。
美しいタカラガイも落ちています。
ここに生きているということの証です。
オニヒトデも埋められます。
それにしても多いのが釣り具です。イカエギは10本以上,
鉛も15個ぐらい拾いました。人間が自然界に放置し生きものに
迷惑をかけた上に今度は自然から身を守るために
海を埋め立てる…。私たちは,このまま人工物と一緒に埋められる
生きものに対して申し訳ないので出来るだけ釣り具を
拾い集めました。
ジュゴン(沖縄の方言でザン)の大好物の海草のウミヒルモが
漂っていました。何かの拍子で海底から離れてしまったのでしょうか。
自然の残る海中からこれから埋める海を陸方向に見ました。
太陽が明るいうちに既に造られている人工浜の方に行ってみる
ことにしました。途中,人工リーフの上を通過していきます。
ここは,自然の海底の沖側に敷き詰められたコンクリートブロック
(この下にも無数の生物がいたことでしょう!)です。
人工リーフは十字型の巨大なコンクリートを海底に敷き詰めて波の
エネルギーを緩和する作用があるのでしょうか,しかしその上には
ほとんど生きものが住み着いていません。
荒涼とした冷たい世界です。
下の写真は海底に敷き詰められた人工リーフのコンクリート
(上記の画像は北限のジュゴン調査チーム・ザンからお借りしたものです)
人工リーフを過ぎて隣の人工浜に来ました。
真っ白な砂の海底が広がっています。とても美しく見えますが,
これは,偽物の美です。相棒が人工リーフと砂の境界を進みます。
この砂(チービシという沖縄の離礁の海底から
大量に採取し,船で持ってきたものと言われています)の上には,
ほとんど生きものを見つけることができません。魚もいません。
参考に海底から大きめの貝殻などが集まった部分の砂を採取し
観察しましたら,小さなカニ(3ミリ)やヤドカリ(5ミリ)や
極細のゴカイなどが見つかりました。
しかし,砂上や砂の中の貝など,その海域に元から生息していた
生きものが,よそから運び入れた砂で適応して生きられるのかどうか
疑問です。周囲の海底の様子からして人工浜で生きていける
生きものは限られるのではないかと考えています。
しばらく人工浜の海中をうろうろしました。
水深が急に深くなっているところがあります。
また一方で,かつての岩礁でしょうか,ちょこんと砂上に頭を出している
部分がありました。そこには,ナマコやサンゴが生息していました。
砂漠のオアシスという感じです。これらの生きものが証明しているように
生物の多様性を維持するのには,足場となる岩礁が必要なのです。
海底の砂が移動して埋められていた岩礁の頂上が出ている様を見て
かなしくなりました。
私は,渚に向かって移動しました。浜に近づいているのに浅くなりません。
いよいよ渚の近くで浅くなりましたが,一面白く白濁しています。
さざ波程度ですが,いつもこんなに濁っているのでしょうか。
自然の海岸では考えられません。渚から5メートル沖まで白濁していました。
もし,岸で子どもが遊んでいて,ちょと入ってみようと足を踏み入れたら
急に深くなり,また濁っているので,おそらく足を取られおぼれ,
海難事故が起こる可能性があると思いました。これは消防に努めていた
経験から言えることです。
浜の砂は風で陸上に上がっていました。防砂用の網が設置されていましたが,
効果はあまり無いように見えます。砂が波で打ち上げられ,風で陸域に飛ばされて,
海中の砂が減少しているのかもしれません。
ある人工ビーチは砂を定期的に供給しないといけないと聞いたことが
あります。
チービシの海底にも無数の生きものが生息していたことでしょう,
これを採取し,別の地に持ってきて自然の海底を埋め立てる。
これは,二重の殺りくをやってるということでしょうか。
形だけは,過去の開発で失った海岸に似たようなものは造れますが,
生きものも住めない偽物の浜なのだと私は思いました。
沖縄本島には,防災やリゾート目的で人工浜を造りますが,
全国一の数だそうです。自然の海底を埋め立てて人工の浜を造ったり,
泡瀬干潟や辺野古のように海を埋め立てることは,生物多様性の
重要性を主張しながらも一方で生物多様性条約を批准していないことだと
思います。
最後に陸域からの東江を見てください。
写真の突堤から右側が昨年埋め立てた人工浜で,左側がこれから
砂を入れる生物多様性の海です。砂は右と同じ位置まで入れますので
自然の海底は完全に砂の下敷きとなる予定です。
海から上がったらもう夕方でした。
この清らかな海にまもなく砂が投入されるのです。
その量はあまりにも膨大な量でしょう。
車に戻ったら猫のファルが「どこへ行っていたのよぉ,
寒かったじゃないの」という顔で怒っていました。
完成した人工浜のある街区では風の吹く日に砂が飛んできて
大変だという声があるようです。台風の時に潮に代わって砂嵐が
発生するのでしょうか。
危険な波打ち際と砂の害,この工事が本当の防災になるのかどうか
様子を時間をかけて検証してみる必要があるように思えてなりません。
このまま工事を続行し,新たな人工浜がもう一つできあがると,
危険が倍増することでしょう。
名護にお住まいの方々,あと少しで失われる海を見てあげてください。
砂浜が出来てかつての原風景が取り戻せたと思うのは早計です。
砂を投入しようとしている海は,傷んでいても,かろうじて今でも
残っているかつての名護の海そのものです。
ここに砂を入れれば全てが埋まり,多くの生きものの命が絶たれます。
この海をやさしく見守り,海への負荷を減らせば,自然の再生力により,
サンゴ礁生態系がよみがえる可能性のある海です。
東江の海を見て,私たち人間生活のあり方と生きものとの関係を
考えてみてはいかがでしょう。
最後に特筆すべきことは,現場の工事の業者さんは,沖縄の海の
すばらしさを知る心優しき人たちです。自らの生活を立てるために
手をくださなければならない現実,現場の人が一番辛いのです。
工事現場に入る私たちに声を掛けてきたその方は,
ほんのひとときの短い会話からもその人なりの人間性が
伝わってきました。名札にはウチナーンチュの名がありました。
自らの生まれ島を壊さなければならない辛さは計り知れないものが
あります。悪いのは現場の業者ではなく,制度や現実を直視し
検証し改めない行政や政治にあるのだと思います。
そのために重要なことは,県民一人一人が周囲の問題に感心を持ち,
調べたり知ったり考えて発言し行動することだと私は思います。
そうでないといつまでも世の中は良い方向に変わらないものだから
です。
あなたは,どうお考えになりますか。
以下の列記した本は,私が沖縄の海の開発と公共事業のことなどで,
主に参考にしてきた本です。まだまだ他にも良書があります。
幾つかは古書ですが図書館では見つかることでしょう。
・岩波新書 五十嵐敬喜,小川明雄編著「公共事業は止まるか」
・岩波新書 加藤 真著 「日本の渚」
・沖縄時事出版 「消えゆく沖縄の山・川・海」
・朝日文庫 本多勝一著「そして我が祖国・日本」,「日本環境報告」
・高文研 故吉嶺全二著「沖縄・海は泣いている」
・晶文社 故安里清信著「海はひとの母である」
イベントのご案内です。
環境学習会が限のジュゴン調査チーム・ザンの主催で
開かれます。
1月23日(日)14:00~16:30
名護市大南2丁目16-26 大南公民館
主催・連絡先 北限のジュゴン調査チーム・ザン 090-8032-2564
このイベントで東江の状況も公開するそうです。
私も幾つかの東江の海中写真を出展します。