東江海岸Ⅱ

有光智彦

2011年01月16日 20:03

今日の沖縄は北風が強く外気は13度です。相当寒いです。

前回は1月5日と8日の記録をまとめてブログを更新しましたが,
今回は12日と13日の状況をまとめました。

12日と13日で東江の埋め立てが予定されている海のクマノミを
移植する作業が行われました。この様子を記録すると共に
さらにこの海の中の様子を撮影してきました。

東江がどのような所なのかよくわからないと思いますので,
名護市に入る手前からの写真も載せておきます。



山の迫る海岸線を走っていますが,これが国道58号線で,
西海岸の動脈です。おそらくかつての自然海岸も押し迫る
山のふもとにあったのでしょうか。
コンクリートとテトラポットの延々と続く古い護岸があります。



現場に着くともうクマノミの移植が始まっていました。
黄色い小舟に機材を乗せ,回収した生きものは筏の海中に
つり下げられたコンテナに入れています。



海は時化ていて海中も濁っています。水温は19℃でとても
寒く,二重のウエットスーツを着ていても震えてきます。

移植を行っているのは業者の3人です。
最初に3匹のカクレクマノミのイソギンチャクをセットで
移植する作業をしていましたが,私が到着したときには
この一件目が終わったところでした。
下の写真は容器に収められたカクレクマノミのファミリーです。



撮影は2件目のハマクマノミから行いました。
業者の人によるとクマノミとイソギンチャクの移植は初めてだ
とのことでした。
傍らで作業の様子を見守りましたが,この作業は容易では
ありません。

最初にクマノミを捕獲しますが,大きな個体を確保できても,
小さい個体はイソギンチャクの中に隠れてしまい出て来ません。



刺激を受けたイソギンチャクはしぼんでしまいますから,
さらに捕獲は難しくなり,やむを得ずイソギンチャクを岩盤から
剥がす作業と同時に捕獲を行っていました。



岩盤は陸上のコンプレッサーから供給される空気で
作動するエアハンマーを使います。水中でこれを使うと大量の
空気とともにゴンゴンという震動が身体に伝わり,周囲は濁って
しまします。



途中隠れていたおちびさんを捕獲し最初に捕らえたファミリーと同じ
容器に入れます。



こうしてイソギンチャクを採集するのに1時間も掛かります。
その間,休むことなく作業が続けられます。
業者の人は,近くに,はまっている大型のウニに何度か刺されて
いました。



刺された傷は1ヶ月以上傷となり痒みが止まりません。



ウニはちょっと移動です。



業者の3人は水温の低い水中で無駄なく動いています。
最後の一番小さなクマノミもようやく捕獲し一件が終わります。
見ているとこの業者の方々の誠実さが伝わってきました,
魚が見つからないからもういいやとなりそうですが,そうではなく
最後まで捕らえて慎重に作業をしていました。



2日間で5つの移植を完了しています。
しかし,現場海域にはまだたくさんのクマノミたちが暮らしています。
これらの全てを撤去し移植することは,冷たい水中での困難な作業
からして困難だと思います。
残りのクマノミたちは埋め立てにより逃げるかもしれませんが,
お家であるイソギンチャクは生き埋めとなります。
家を失ったクマノミたちは,どこかのイソギンチャクを探さなければ
ならないでしょうが,そこには既に先住がいるので,そう簡単には
見つからないでしょう。
業者の人たちは,クマノミと元のイソギンチャクのペアを
取り間違えることなく,埋立区域外の水深約6メートルの
自然岩礁の海底に移植し作業を完了しました。



素潜りですが,この写真だけは撮らなければと思い,何度か
潜行して撮影した写真です。
潜行すると青い世界であることがわかります。
タンクを背負わない私にはあまり縁の無い領域です。
下の写真は12日に移植したカクレクマノミのファミリーです。
元気でした。



下の写真はハマクマノミのファミリー。



今回移植されたサンゴやクマノミは,保証はありませんが,
埋め立て後も生き続けられます。しかし,残ったものたちは
死ぬのを待つだけです。
私も相棒もできるだけヒトデやナマコなどの生きものを拾い集め,
埋め立て外の海に放ちましたが,拾うときに選別しなければ
ならないことが,とても苦しいのです,私の一存で生死を決められる
のですから。死と直面した生きものたちを直接海中で見ていると,
海を埋め立て生きものを生き埋めにするということがどういうこと
なのかを実感として感じました。
生死を目の前にした生きものを見ていると,命とは何かという
根本的なことを考えてしまいます。
社会で起きている殺人や虐待に対しては,命の大切さを
教える教育として最近よく新聞紙上で語られる話題ですが,
それは人間に限定された命のことです。
命とは生まれ成長する生きものに宿っています。
ジャガイモも食べずに放置すればやがて芽がでますし,
おにぎりのお米も元は稲の種としての生命を備えていたものです。
大きさも形も知能も違いますが,私たち人間と同じように成長
しようとします。命の本質はわからなくても,自分の命の大切さをを
考えてみると,みな同じように大切な命ではないかと
思えてくると思います。人間を含め,自然界の循環の中での
食物連鎖や病気による死は自然的な要素が強いことですが,
人為的な外力なよる死は不自然な死です。
私たちが命とは何かを考える時は,人間だけのヒューマニズムから
一歩脱却して地球上のあらゆる命の総体的な視点から見なければ
ならないのではないでしょうか。
小さいから,形が違うから,知能が低いから,という見方で
他の生きものを計るのは早計ではないでしょうか。

また,移植(移動)すればいいという問題でもありません,
水深も光の当たり方も潮の流れも水温も生きものの種類も全てが
違う環境に強制的に移されるのですから,今後生きられるかどうか
全く保証はありません。また,生きものは適度な密度で生息しているので,
そこへ他から移した生きものを加えると生息状況にどのような
変化を与えるかわかりません。

泡瀬干潟の埋め立てによる,埋め立て区域からのサンゴ移植は,
「移動」というべきお粗末さでした。
砂の舞い上がる砂地の海底に鉄筋を十時に組み合わせたものに
サンゴをくくりつけ設置しました。
もう一カ所は防波堤の内側のテトラポットの上でした。
ここが泡瀬のサンゴたちの移住先だったのです。
これが沖縄市の施策でした。

下の写真はカクレクマノミのファミリーを前回入った時にに撮影して
おいたものですが,今回の移植の対象となり,移植後の景観は
このようになりました。



いままで良い環境で営みを続けていた彼らの身の上に人間たちの都合で
強制移住させられたのです。沖縄県民が先の戦争の時に強制的に
土地や家を取られ追われたのではなかったか…。
静かで美しい世界が破壊されたのです。



12日は悪天候,13日は空も晴れて海も静かになっていました。
13日は,午前中は依頼されたビデオ撮影,午後はこの海域の生きものを
撮影し,夕方にクマノミの移植先で作業する業者の様子を
見ました。朝10時に海に入り,ノンストップで17時過ぎまで
入っていました。かなり体力は消耗しましたが,たくさんの
素敵な生きものを撮影できました。

一つ大きな発見がありました。それは,水深約5メートルの海底に
鎮座している塊状ハマサンゴです。高さは約3メートルぐらいあります。
下から順番に成長してきた痕跡が残っています。



友人がいろいろ調べるとここまで成長するのには300年ぐらい
かかっていそうだと言っていました。しかし,学者の調査にゆだねなければ,
はっきりしたことはわかりません。
ただ,おそらく何百年も経っているのには違いないでしょう。
この東江の海の中で生きてきたのです。
つまり名護の海の原風景(水中ですが)の生き証人と言えるでしょう。
または,東江のシンボルといいかえることもできるかもしれません。
歴史とともにここに今でも存在し成長を続けているのです。

名護にヒンプンガジュマルという樹齢300年ぐらいの古木が道路の
真ん中に堂々と生えていますが,この木と同じ年月を生き抜いてきたのかも
しれません。
また,ハマサンゴの骨格はその年代に起きた様々な環境の変化を
年輪とともに刻んでおり,サンプリングして調べると過去の変化を
読みとることができると聞いたことがあります。
このような,サンゴが現在でも生きているのに,あと数日で死を迎えることに
なるのです。ほんとうに埋め殺していいのでしょうか。
名護市の人々がこのことを知ったらどう思うでしょうか。
東江の前の海は,外から見ると都市の前にあり,一見汚そうに見える
かもしれません。しかし,海の中をのぞいてみると信じられないほどの
生きものの営みがあるのです。海は外から見ただけでは決してわからない
のです。



まるで長老のかんろくがあります。日光の当たる一番上は藻類が
生えていて,孫のような小さな魚たちがたわむれていました。
この巨大なサンゴは下の写真にあるように岸からほんの
数十メートルのところにあるのです。信じられますか。



サンゴもたくさんの個体を確認しています。
海底に広がっていくタイプや玉状や枝状に成長するものなど
様々で,状態がよく元気です。



















サンゴはどれも元気に成長を続けています。
そのサンゴを目の前で撮影していると,まもなくこの元気な
サンゴが死ぬ運命にあることが信じられない,なぜ死ななければ
ならないのか,言い換えるのなら,なぜ殺されるのか。
それは,私たちが安心して暮らすためになされる工事の
ためにです。しかし,それは大規模で自然に優しくない工事です。
また,人間にとって景観に配慮した工事でもありますが,
生きものには考慮していません。
私は,海岸防災の技術のことは詳しくありませんが,
生きもののことを配慮しない工事に異議があります。

星砂もたくさん生息しています。



星砂も汚れた海には生きていません。

前回ブログでアップしたウズラガイは,貝の専門家に聞くと,
この貝は食物連鎖の上位にあり,この貝が生息していることは
その海に生息を支える生物相が存在しているからだと教えて
くれました。



砂地の水深は約6メートル,中層にはハリセンボン(アバサー)の群れが
じっと浮いています。その一匹に照準を合わせ,死角から接近して
顔の表情の撮影を試みます。不意をつかれたアバサーは,一瞬
固まって動けませんでした。笑い。そこを激写。



魚たちの楽園もあります。



ウミヘビもいます。ご飯を探しているようです。



トラギスの旦那が人間の移植作業の現場を遠目にのぞいています。



相棒がマガキガイを救出してきました。沖縄では食用にされる貝です。
たくさんの目が不安げに見つめています。



変わった巻き貝も生きています。



ソフトコーラルの子どもたちです。



相棒が今度はウニの赤ちゃんを見つけてきました。
棘を除く本体の大きさは約5ミリです。
グローブを外し,手の平に乗せて撮影しました。
潮の流れに飛ばされそうになります。



またまた相棒が何か持ってきました。
手には生きていないクサビライシというサンゴが握られています。
その縁にとても小さなクサビライシの赤ちゃんが幾つか生えて
いました。肉眼では見ることのできないものをカメラは拡大
して見せてくれます。
その繊細な姿は生命の美しさです。



このような生きものたちが東江の海には住んでいるのです。

県民のみなさんをはじめ,内地の方々も含め,沖縄本島の海の現状を
つかんでいる人はどれだけおられるでしょうか。
まだ沖縄の海は綺麗だから心配無いと思っているかもしれませんが,
それは間違いです。本島の海はどこも傷んでいます。
それは,埋め立てや護岸工事をはじめ,未だに続く赤土の流入,
生活排水,ゴミの投棄,釣り具などの人為的な要因によるものです。
これ以上続ければほんとうに海はほんとうにだめになるギリギリの
ところにきているように思えてなりません。
東江の埋め立てを行う前に,沖縄の海のあり方を徹底的に
議論してほしいと思います。

議論をしつくして,結果埋めるならまだ理解もできますが,
現在の沖縄県には海に対するビジョンがあるのでしょうか。
私は沖縄に住んでいて,新聞や様々なメディアや海に関係する人々から
海に関係する情報を常時入手していますが,県をはじめ行政機関に
本気で海をどうするのかというビジョンが見えてこないのです。

沖縄と言えば海ですが,その海の将来的なビジョンが県に
無いのはどういうことなのでしょうか。
先日,沖縄県による21世紀ビジョンの説明会が名護でありました。
私は,東江の海に入っていたので,資料を見せてもらったのですが,
県はサンゴの移植を行い,海の保全に力点を入れるように
書かれていますが,今ある健康なサンゴを埋め立てて新たに移植では
矛盾しています。



現在ある海の問題点を解消するように少しでも努力し,サンゴの移植も
進めるのなら理解できます。
でも,まずはマイナス要因を減らし海が自然に再生するのを促進する
ことが大切だと思います。

海も山も川も貴重な自然をどう維持し守るのかを県はまず,
本気で議論すべきです。

あなたは,どう思われますか。


来る1月23日(日曜日)に名護市大南2丁目の大南公民館で
「北限のジュゴン調査チーム・ザン」主催の環境学習会が
行われます。14時から16時半。
お近くの方は是非いらしてください。
タイトルは「貝世界から見た沖縄の渚のいま-破壊する多様性」で
沖縄の海岸に生息する貝類の視点から身近な渚の多様性が失われつつ
あることを検証しようという内容です。
会場では貝の専門の知識を持った名和さんの貝類展示や東江の海中
のDVD放映,沖縄の渚の未来についての質疑応答と討論会が
企画されています。申し込みは不要です。
私も,東江の海の生きものの写真を公開します。

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