いつもの顔

有光智彦

2009年01月09日 02:33

市販のウエットスーツは耐寒性に欠けるため,漁師が着装するタイプを着て
海中に入っています。インナーにベストを着て,その上に通常の5ミリ厚の
ウエットスーツを着て万全です。
これなら,冷たいイノーの中に3時間以上居られるのです。
外洋なら時間制限なしです。1月4日のイノーの海水温度は18.5度
外洋は22.5度で水風呂と温泉の違いがあります。笑。

調子にのって,正月から1.2.3.4日と連続で水中に入っていたせいか
風邪をどこかでもらい5日を休み,6日に鼻が詰まり耳抜きが出来ないまま
海中に入り,7日と8日を寝床で過ごしました。笑。
8日は雨だったので,あきらめもあったのですが,今夜は風が強くなり気温が
下がってくるのかもしれません。

イノーは外気の影響を受けて,ひんやりしています。
太陽が出ているときは,少し暖かく感じます。
また,満ち潮で外洋の海水が入ってきているときは,22度ぐらいあって暖かです。
でも,夏に比べると魚もダイバーも少なく寂しい感じがします。
私のような素潜りの人は,ほとんど見かけません。

意を決して水に入り,ウエットスーツの中に海水を入れます。
その後,この水が体温で温められて保温されます。
マスクのメーカーは,「マンティス」で,度付きのレンズに交換したら,
内側に曇り止め加工が施してあり,ほとんど曇りません。これは便利です。

まずは,イノーの観察から。
最初に目がいくのが,いつもの顔です。ハマサンゴの朽ちた小穴に住んでいる
ギンポを探します。顔の幅が5ミリもないので,見付けるのは容易ではありません。
同じ種類のギンポでも,顔は人間のようにいろいろです。
目は自在で,左右別々に動きます。私を見ながら,斜め後ろの警戒も怠りません。
ときどき口をパクパクさせたり,あくび?をしたりします。おもしろいです。
食事は,海藻を口でこそぎ取って食べています。
このギンポに出逢うと,そこで30分は撮影につきあってもらっています。
ギンポはおそらく大迷惑でしょうけど。



イノーは冷たいので,100年前に造られたという人工水路を通って外洋に
向かいます。外洋は,穏やかな時にだけ出ることにしています。
一番怖いのは,リーフに砕ける白波に巻き込まれることです。
写真は比較的明るい浅場で撮っているので,うっかりしていると波に
巻き込まれてしまうのです。巻き込まれると,ギザギザのリーフの上を
岸に向かって押し上げられるので身体中,怪我をすることになります。

人工水路の海底は,釣り人の残した釣り糸と鉛が沢山落ちています。
糸も鉛もいつまで経っても残っています。特に鉛は,苔さえ生えません。
有毒である証拠です。糸はサンゴに絡まると,サンゴは死んでしまいます。
釣り具メーカーは,糸を自然に戻る素材にし,鉛の変わりに安全なものを考案
するべきです。

人工水路の潮は止まっています。ちょうど干潮と満潮の境の時間なのでしょう。
水深は1メートルでかなり濁っています。視程は,約5メートル以下です。
徐々に水深は増し,狭かった水路も広がりを見せ始めます。
視程もよくなり,海底にサンゴが見え始めると,外洋です。おおきなうねりが
身体をゆっくりと持ち上げます。快適です。
いつもの顔を探しにポイントに向かいます。
ちょうどそこは,サンゴ礁の縁で,なだらかに深くなっているところです。
いつものギンポは,居てくれました。何故か嬉しくなります。



「やぁ,こんにちは。今日も写真を撮らせてもらえますか。」と語りかけてから
2.3枚シャッターを切ります。
いつまでも,そこに居てほしいと思います。

しばしの再会の後,リーフに沿って移動します。
右手は,どこまでも続く太平洋の深みで,真っ青です。視程がいいので何か
被写体はいないかなぁとキョロキョロしています。
そして,今日もまたミノカサゴが同じ所に漂っていました。



数日間同じところを漂っているとなると,夜はどうしているのか気になるところです。
今日も,こわごわ近づき,写真を撮らせてもらいました。

深い所に潜行する時は,装着している浮き輪のロープを外し,岩に固定します。
自由になったら,5メートルまでが潜行の限度です。写真は自然光に頼り,フラッシュを
使わないからです。それでも5メートル近くでは,写真が青っぽくなります。



2時間ぐらい外洋に居たでしょうか。そろそろイノーへ戻ります。
イノーに戻り,撮影しながら岸に向かいます。
静かなイノーが一番撮影に向いています。
また,小さな美しい世界があるのもイノーです。
下の写真は,小さな小さなホヤの仲間です。水を吸い込むやや大きな口と小さな口が
なんとかわかります。こんなに微細な生物も,広大な海の中で生きていていると
いうことが,とても不思議に感じられます。



ホヤの直ぐ近くをヒラムシの仲間が海底を這って行きました。とてもシンプルで鮮やかな
色彩です。なんと海の生物の色彩は多彩で豊かなことか。いつも関心します。



岸近くのサンゴの縁でウミウシが卵を産んでいました。
ウミウシの体長は約2㎝。卵は半透明でいくつもの筋が見えますが肉眼では,よく
見えません。このときこそ,カメラの出番です。
マクロレンズで撮影すれば,後でパソコン上で,拡大して見れるからです。
その時,こんなに繊細な姿だったのかと,感動することができるのです。



海の生きものたちは,とても不思議です。
その謎は,毎日海に入り長時間接していないと見えてこないように思います。
もっともっと彼らのことを知りたいと思います。


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