2009年01月15日

満月の海中

11日の満月の夜,友人と深夜の海へ行って来ました。
場所は大度海岸。時間は23時,昼間ダイバーでにぎやかな駐車には
漁りでやって来た人たちの軽トラが数台あるだけです。
真っ暗な海岸は,潮が引きはじめ幾つかの懐中電灯が光っています。
天中に高く上がった月は満月で,地表を皓々と照らしています。
風は無く暖かです。
最大の干潮は,日付が変わって12日の01時51分,マイナス32センチという,
普通引かないところまで干出する大潮です。

潜水は素潜りです。
海の生きものが夜間何をしているのか観察することと,満月の海の中はどんなに
見えるのかが知りたくて今回の小冒険を計画しました。
準備をし,水中ライトの点検をします。
潜るのは,直径約30メートル,水深約3メートルのタイドプール(潮溜まり)です。
満潮の時,そこは水深5メートルとなり,完全に水の中にある場所です。

夜間の海で,一番怖いのは「ダツ」です。
この魚の頭部は鋭利にとんがっていてナイフの様です。
夜間,光に突進してくる性質があり,夜間の電灯潜りという漁では,突っ込んで来た
ダツが顔面に突き刺さり,重傷を負ったケースなども沖縄にはあります。

満月の海中

それを考慮し,外洋とイノーは入らないことに決め,安全なタイドプールにしました。
良く引いた礁原を歩いて沖のリーフまで行きます。
いつも見慣れた風景とは違います。
普通は水面下の世界が今ここに広がっています。
イノーのは,満潮時には水深が3メートルぐらいあるのですが,今は僅か50センチぐらいに
なっています。もう泳ぐことはできません。たくさんのハマサンゴやエダサンゴが
水面上に出ています。

足下の悪い礁原を20分も歩き,大きなタイドプールにやって来ました。
辺りは,月に照らされて懐中電灯が要らないぐらいです。
私たちは,タイドプールに続く細い水路部から海中に入りました。
外海と遮断された水中は,とても静かな世界です。
水中ライトを照らし廻りを観察します。昼間のような賑やかな様子はありません。
魚たちは,身体を夜間色に変えて岩陰でじっとしています。
ライトを向けると驚いて岩棚の下へ逃げていきます。

満月の海中満月の海中満月の海中満月の海中

岩棚の前には「オトヒメエビ」が出ていました。
このエビは昼間は,洞穴の中に居て外に出てくることはありません。
水中ライトを足に挟み,エビに光線を向けてカメラの焦点を合わせます。
至難の業です。笑。なんとも不細工な格好です。
数枚写してあきらめてしまいました。

満月の海中

そろそろタイドプール本体に入って行くことにし,ライトを海底に向け,身体から
放して持ち,ダツを警戒しながら進んでいきます。
ダツは大きいもので1メートル近くあります。そんなのに突っ込まれたら
大変です。
慎重に周囲の観察から始め,一周したところで,どうやらダツは居ないことが
確かめられました。これでひと安心です。

月は,いよいよ頭上で輝き,神々しい光を放ちます。
その淡く青い光は浅い海底をやさしく照らします。
水中ライトを消灯しても,うっすらと白砂の海底が見渡せました。

海面にポッカリと浮かんでみます。
なにも怖くありません。やさしい母なる海に抱かれ,月光の清らかなシャワーを
全身に浴びながら,止まった時間の世界をいつまでも楽みました。

満月の海中

海底までは,わずかに3メートル。一息で潜行し岩につかまって仰向けになり
海面を下から見上げます。
月の光がさざ波に揺れ,差し込む月の光は琉球ガラスを透かしたように
淡い青緑色です。
私は,何度も何度も,海底に降りました。
こんなにすばらしい静粛な世界があるなんて…。

満月の海中満月の海中

なにやら,こちらにライトが近づいてきました。
どうやら釣りのおじさんのようです。
ずんぐりむっくりのシルエットが月の明かりに照らされています。
私たちは,ライトを消して息をひそめました。
いたずら心がむくむくと沸いてきました。
おじさんは,水際に立ってこちらの気配を感じているようです。
そして,おもむろに声を掛けました。
「こんばんは!」。
一瞬,静寂…。
おじさんは驚いたのか「あきさみよぉー」と一言。沖縄の言葉で「おどろいたさぁー」の意。
おじさんは,真っ暗な海の中から突然人間の声がしたことにびっくりしたと言っていました。
「カモ」でも居るのかなと思ったそうです。
いたずらもこれぐらいがちょうどいいでしょう。笑。

他に,「ガンガゼ」や変なナマコ,エビなども沢山見かけました。
明らかに昼間とは違う生物がうごめいている世界でした。

満月の海中満月の海中満月の海中

月も少しばかり西の空に傾いた頃,肌寒くなってきました。
そろそろ水から上がらなければならないようです。
水に入った位置へ戻ります。
水面にイワシの様な小魚が何匹か泳いでいました。
ライトを向けると,ちっちい身体で,かわいく突進してきました。
これなら,いくらぶつかってもかまいません。

満月の海中満月の海中

水から上がると急に身体が重たく感じます。
今まで,無重力状態で浮いていたのですから。笑。
このまま帰るのももったいないと,潮が極限まで引いた海底を散策して歩きました。
ここまで引くなんてと思い,不思議でいっぱいでした。
ウエットスーツを着たまま散策したので,寒さが身体の芯まで浸透しました。

駐車場に戻り全ての片づけが終わった頃,月は西の空に傾き,時は5時前に
なっていました。潮も満ちて,泳いでいた先ほどのタイドプールもどうやら
水の中に戻ったようです。
この小さな冒険に感動し,来月も入ってみようということになりました。
一月後の満月です。天気が良ければいいのですが。


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この記事へのコメント
 満月の夜の海
こんななのですね

「ダツ」 はそんな習性があるのですね、あぶなーい

タイドプールの水中、赤い魚の背びれが、きれいでゴージャスですね、

風邪をひかないようにお気をつけて、次回も楽しみにしております。
Posted by グリーン at 2009年01月15日 21:49
グリーン 様
いつもブログを見て頂きまして感謝です。
海は一見怖い世界のように思いますが
そうではなく,それぞれが淡々と真剣に
生きている世界のように思います。
夜も昼間同様に静かです。
人間のように故意に攻撃するいきものは
いません。ひよっとすると人間以上に
進んだ世界なのかもしれませんね。
みなさんにほんとうの姿を知ってもらうために
これからも続けていきます。
Posted by 有光智彦 at 2009年01月17日 10:29