昔からの面影を多く留めている浜辺に来ました。ここには堤防が無く、
海から陸へ続く浜に障害物はありません。
海は、サンゴ礁の内側の浅い海で比較的静かです。方言では『イノー』と言います。
イノーの海底はサンゴ礁由来の白砂で出来ているので、太陽光線が強い夏は、
光が海底に反射して、海が濃淡異なるいろいろな青に変化します。
海岸は、その土地の岩石やこの海に生きていたサンゴや貝殻などのかけらから
できていますが、この海岸には、打ち上がった貝殻の種類が少ないように見えます。
この辺りの海を昔から知る人が、昔はサンゴが群生し、生きものたちがたくさんいたと
言っているのを何度か聴いたことがあります。どんな海だったのでしょうか。
今でも海を眺めると美しく見えますが、棲んでいる生きものの種類や数に
変化が起きているのかもしれません。
波打ち際の近くに座り込んで、小さな貝殻の写真を撮っていると、わずか数ミリの
オカヤドカリの赤ちゃんを見つけました。
身体はほとんど透明か、または、わずかに橙色をしています。
背負っている貝殻も微小貝です。
オカヤドカリは陸上で見られるヤドカリですが、親は波打ち際で産卵し、孵化後
しばらく海で暮らし、その後、陸上の生活を始めるそうです。
そうすると、私が見つけたおちびさんは、海から上がってきて、陸の生活を
始めた頃だったのでしょうか。
彼らにとって小さなサンゴのかけらや小石も大変です。えっちにおっちら乗り越えて
いきます。移動の途中で貝殻を発見すると、さっそく使えそうかどうか確かめていました。
上等な貝殻がほしいのでしょうか。
成長する過程で、より大きめの貝殻に取り替えるようですが、観察していると、
日常的に貝殻を交換しているようにも見えます。
オカヤドカリたちが背負っている貝殻は、たいていその海岸に打ち上がった
一番上等なものです。
海岸によっては、みんな同じ種類の貝殻を背負っていたり、大きな貝殻が
見つからないのか、小さな貝殻を使い続けている姿を見かけることもあります。
彼らは、この海で生まれ、その場所の自然の中で成長し、繁殖して、
時が来れば生命を終え、身体は分解して自然の中に戻っていきます。
生きものは皆、太陽や水、土、風、食べものなど、その土地の自然と
固く結びついて暮らしています。
何千年、何万年と続いているであろう生命の継承が、この先も続いていくことを
願わずにはいられません。